心霊学研究所
『小桜姫物語』浅野和三郎著
('02.12.19公開)

四十六.龍神の生活


 

 私は気を取り直して質問を続けました。

 

問『龍神も人間のように死ぬことがありますか?』

答『人間界と同じような死はもちろんない。あれは物質の世界特有のうるさい手続きだからね。でも龍神の体に一つの変化が起こるのは事実だ。あなたも蛇の抜け殻は知っているだろう。ちょうどあれに似た薄い薄い皮が、龍神の体からもぬけて落ちるんだよ。龍神は普通しっとりとした沼地のようなところでその皮を脱ぎ捨てるんだ。』

問『龍神さんの分霊が人体に宿ることは、現代では絶対無いんですか?』

答『龍神の分霊が直接人体に宿って、人間として生まれると言う事は絶対にないと言ってよいだろう。でも一人の幼児が母体に宿った時に、同一系統の龍神がその幼子の守護霊、または支配霊として働く事は、決して珍しいことではない。それが龍神としての大切な修行の一つでもあるからね。』

問『龍神にも成年期(訳者注:ここでは成人するまでの成長期間の意味)なんてありますか?』

答『あるよ。龍神だって修行を積まなければ一人前にはなれない。』

問『大体成年期は何年ぐらいですか?』

答『これはまた無理な質問をなさる。本来こちらの世界に年齢はないからねえ。でも人間の年齢に直したら、そうだなあ、大体五、六百年ぐらいだろうか。』

問『人間みたいに結婚式なんて挙げるんですの?』

答『人間界の儀式とは違うが、やっぱり夫婦になる時は決まった礼儀作法があり、上級の龍神の指図を受けるよ。』

問『やっぱり一夫一婦制ですか?』

答『そりゃそうだ。修行の積んだ位の高い龍神になればなるほどこの規律にそむく事はない。でもね、未熟な龍神はそうばかりでもないんだ。』

問『生まれる時はやっぱり一体ずつですか?』

答『一体が普通だ。双子なんてめったにないよ。』

問『お産なんてありますか?』

答『そりゃあ妊娠する以上お産もある。そんな時はたいてい女性の龍神はどこかに姿を隠すんだ。』

問『一組の夫婦の間に生まれる子供の数はいったいどのぐらいなんでしょうか?』

答『それはわからん。普通とても沢山できるので勘定しかねる。』

問『年を取ればやっぱり子を産まなくなりますか?』

答『生まなくなるが、それは年を取ったからではなく浄化したからなんだ。』

問『浄化した龍神としてない龍神はどうやって区別がつきますか?やっぱり色ですか?』

答『ああ、色が一番よく分かるね。最初生まれたての龍神は皆茶色っぽい色をしているんだが、だんだんと黒くなり、その黒味が薄れて灰色になり、次にはそれに蒼《あお》みが加わってくる。あなたもご存知のように、多くの龍神は蒼黒いだろう。それがまた向上すると浅黄色《あさぎいろ》(薄い黄色)になり、もっともっと向上すると、あらゆる色が薄らいでしまって、なんとも言葉に表せない神々しい純白色になる。白龍になるためには大変な修行、大変な年代を重ねなければならないのさ。』

問『夫婦になるのはどんな色の龍神さんたちですか?』

答『色にはよらない。もっとも黒同士で結婚していつまでたっても黒いままなんて夫婦もたまにいるけどね。』

問『男女の区別はどうやって見分けるんですか?』

答『角が一番の目印だ。角のあるのが男で、ないのが女だ。』

問『龍神の夫婦はやっぱり同棲するんですか?』

答『龍神にとって一緒に住む住まないは大して問題ではないよ。龍神の生活は自由自在で、人間のように場所に縛られたりしないからね。』

問『生まれたばかりの子供はどうしていますか?』

答『しばらくは母親の手元に置かれるが、やがて修行場のほうで引き取る。』

問『池を修行場にしているのはどういうわけですか?』

答『池は一種の行場なんだ。人間界で禊《みそぎ》をするように、水で清めるという意味もあるんだよ。』

 


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