心霊学研究所
欧米心霊旅行記
('03.10.01)

付録 国際スピリチュアリスト会議(International Spiritualist Congress)の概況
二、発会式当日の講演ならびに概況


 

 九月七日(金曜)は、午前十時から実行委員、ならびに正規の各国代表者の打ち合わせ会があっただけでした。司会者は例の会長のペリー氏で、格別ここに報告するほどの問題も起こらず、午前中に散会してしまいました。言ってみれば、主だった人たちの顔合わせというだけのことです。私にとっては、むしろこの日の午後を『心霊大学』におけるルーイス氏の実験に費やしたことの方が、遥かに有意義でした。ルーイス氏は、現在英国における屈指の物理的霊媒で、最も厳密な緊縛状態において上着を脱いだり、楽器を演奏したり、なかなかの離れ技を演じます。この日、私自身立会人の一人として徹底的実験ができ、その真価をつきとめましたが、これはここに付記するには、事あまりに重要に過ぎます。別に項を改めて報告することにいたしましょう。

 翌九月八日(土曜)には、ざっと三百人の各国代表者が『クインス・ゲート・ホール』の大会堂に参集しました。まず音楽につづいて、例のサー・アーサー・コナン・ドイル氏が立って、歓迎の挨拶を述べましたが、いちいちフランス語に通訳するので、いささか面倒くさく感じられました。こうして各国の人間が集まった時に、つくづく不便を感じるのは、言語の不統一なことで、大陸側の人たちには十分に英語が分からず、英国側の人たちにはたいていフランス語が分からず、その結果、非常に間の抜けたことになりがちです。いわんや東洋人にとっては、多くは英仏語ともに難解と来ていますから、どれだけ言葉の上で不利益を招くか知れません。だんだん世間の仕事が国際化するにつけて、ぜひここに一つ国際用語を制定する必要を感じられます。それがエスペラントであるか否かは、今のところ私にはまだ不明ですが、とにもかくにも、各国ともに対等の位置にあって仕事にあたることが、ぜひ望ましいことは言うまでもありません。

 さもないと、仕事が非常に不公平になり、ことに東洋方面の人間が、いちばん不利益をこうむります。さいわい三年ごとに開かれる国際大会を機会に、この方面の解決策を、ぜひスピリチュアリストの間から考え出したいもので、その後私は、ちょいちょい主だった人たちに考えを述べましたが、いずれも偏見の少ない人たちのこととて、大賛成の意を表してくれました。無論オイソレとも参りますまいが、そのうち何とか解決の糸口が見えるかも知れません。

 閑話休題、会議の報告に戻ります。ドイル氏の演説は、格別とりたてて言うほどでもないが、すこぶる愛敬たっぷりなもので、ときどき例の警句を吐いて会衆をよろこばせました。----

「皆さん! 何事に限らず、世間の風評はアテにならぬものが多いことをご承知ください。まず英国は天気が悪いというので、世界で有名であります。始終陰鬱で、霧が深くて太陽の光などはろくろく拝めない……。ところが近ごろの天気はどうでしょうか。諸君もご覧のとおり、連日快晴続きで一点の曇りもない。何とぞ諸君は、なるべくこの好天気を利用して、英国の有する名所旧跡をお探りください。次に英国人は陰気で、無口で、無愛想で、親しみにくい人種だとの世界の評価であります。が、これもその天気と同じく間違いであります。またわれわれも、それが間違いであることを説明すべく全力を挙げつつあることは、諸君が先刻ご承知の通りであります。われわれの力の及ぶかぎりの骨折りは惜しみませんから、なにとぞご遠慮なく何なりと仰せつけください」

 次に会長ベリイ氏の挨拶につづいて、総秘書役兼副会長のリパー氏が立って、フランス語で報告と挨拶をこころみました。これもあとで英語に通訳され、相当長時間を費やしました。その要点を次に抄訳《しょうやく》することにいたします。

「……三年前のパリ大会後、世界におけるスピリチュアリズム運動は、着々としてあゆみを進めつつあります。正規の手続きを踏んで加盟する国々が、年々増加しつつあるのは、この上なくおめでたいことです。ただしこの三年の間に、この世界における多くの名士が帰幽されたことは、はなはだ遺憾なことでした。なかでも、前回会長の栄職に就かれたフランスのレオン・ドニー氏、またイギリスのスキャッチャード嬢、フランスのガブリエル・デランヌ氏、アルゼンチンのマリノー氏----これらはいずれもこの世界の恩人です。彼ら偉人たちのために、われわれ一同起立して敬意を表することに致したいと存じます」

 三百の会衆はいっせいに起立して、だまって頭をたれました。約一分の後、リパー氏はさらにその講演をつづけました。

「皆さん、私はわが国際スピリチュアリスト連盟のこれからの発達について申し上げる前に、簡単にわれわれのとりつつある現在の態度を述べさせていただきたいと存じます。パリ大会後の三年間、われわれは全世界に向って、われわれの主張の宣伝に努め、今またここに集まって、いっそう有効にその主張を普及させる方法の討議に入ろうとしつつあります。この際何より必要なのは、細心で精緻な研究です。なぜならば、近代のスピリチュアリズムは、まだその最終的な法則を決定するまでには、長い道のりが待ち受けているからです。われわれは、真理がいかなる形式・方法で、人間の限られた意識に、それ自身を表現しようとしているかを、まだまだ十分に理解できていません。知識の根底をなすものは、言うまでもなく心霊科学ですが、この科学は今なお数多くの困難に包囲されつつあります。一方宗教制度は、依然として真理を独占していると思い込み、そのために、進歩的なるスピリチュアリズムは、簡単には既成宗教の主張と一つになることはできません。同時に、宗教と科学との戦いもいまだ全く消失せず、またスピリチュアリズムと唯物説との争いもいまだ終結にいたらず、右を見ても左を見ても、決して楽観を許すべき時期ではありません。

 くれぐれも油断大敵です。われわれの事業は、大胆不敵な存在であると同時に、また微妙きわまるものです。われわれは、哲学と科学とに対して、単にある程度までの変更を要求しているのではありません。われわれの努力は、もっともっと徹底的です。これはただ純粋に科学的に、人間の有する知識について再調査を施そうというだけのことではなく、それら知識の源泉たるしくみそのもの、言い換えれば人間ならびに人間の所有する霊能の根本的特質について再調査をしようというのです。「汝《なんじ》自身を知れ!」とは、先哲の箴言ですが、われわれは、これに向って正確かつ明瞭な答案をつくらんとして、霊的真理に近づこうと研究にたずさわっているのです。思うに、宗教と科学とが、いつか十分な成熟を遂げ、一体となってとけ合うためには、そうするよりほかに方法は有り得ないと信じます。

 古人の言葉に「文字は殺すもの、精神は生かすもの」と言いますが、これは今でも依然として事実です。近代スピリチュアリズムは、あくまでも形式にはまらず、あくまでも科学的態度で進む必要があります。霊魂の研究に従事し、霊力の表現を突き詰めようとするものでありさえすれば、絶対にその学派とか、宗派などを問うべきではありません。あくまで知識の殿堂を開放し、彼らをして、人類の知識の総量に、何かを寄与させる方針で進むべきです。未知の世界を開拓し、霊的実在を解決するのは、技能と、謙譲と、おおらかな度量を必要とする大仕事です。物事の神髄に近づけば近づくほど、われわれは神に近づきます。尊大で知ったかぶりの見識の狭い人間ほど、神から遠ざかり、真理から遠ざかるものはありません。断じてスピリチュアリズムのとるべき態度ではありません」

 ここまで話すに至ったときには、物静かなリパー氏の顔も、少しばかり熱を帯びて来ました。会衆はきわめて静かに、その一言一句を聞き漏らすまじと耳をすませました。氏は言葉をつづけて、国際スピリチュアリスト連盟の近況の報告に移りました。

「さて、国際スピリチュアリスト連盟の近況ですが、悦ばしいことには、スピリチュアリズムは以前とは打って変わり、ようやく科学の世界に向かって、急速にその地歩を築きつつあることを断言することができます。昨1927年9月、パリに於いてスピリチュアリスト大会が開かれましたが、実に予想外の論文や、討論に接することができました。特に皆さんの注意を促したいと思いますのは、世界第一流の科学者として、学会に定評あるライプチッヒ大学のドリーシ教授の演説です。教授はその際、ハッキリとこのように断言しました。----スピリチュアリストの主張する教義は、超常現象の説明として、もっとも作為のない立派な学術的仮説であることは間違いない。----皆さん! これは故フランマリオン氏(訳注:フランスの天文学者)が述べた言葉と、ほとんど同じことです。われわれは、科学界が沈黙を守るのを、少しも意外と思いません。なぜならば、彼らの渡るべきルビコンは、深くてかつ広いからです。が、ドリイシ教授の心地よい結論に接した時に、いよいよ一切の唯物論は、決定的に廃絶することになったと痛感して、嬉しくてたまりません。もしも世界の思想の流れが、心霊的自覚と、真理とに向かいつつあることさえ明らかであるならば、これを言う言わないは、敢えて問題とするほどのことにもなりません。われわれは飽くまで根気強く、両手を広げて、さまざまな経路をたどり、さまざまな新しい言葉を使って、我々の側に近づきつつある、多くの人たちを待たねばなりません。

 さて、最近三年間の世界各国におけるスピリチュアリズム運動の状況ですが、第一は南アフリカ連邦----南アフリカのスピリチュアリストたちが、正規の手続きを踏んで連盟に加盟してからまだ一年足らずですが、実に見ごたえのある報告が出てきています。同国より、世界心霊用語事典の編纂について、興味深い注文が出ましたが、これは実務委員としても、ちょうど研究している最中の重要事項です。次にドイツ----同国におけるスピリチュアリズムの発達は実に迅速で、ドイツの大学ではドリイシ教授の指導の下に、目覚ましい進歩をしており、地に足の付いた科学的研究が、着々と行われつつあるのは、本当に喜ばしいことです。なお同国内には、セオソフィ、ならびに仏教の思想が、いろいろな形式で活動し、それらに属する諸学会が、さかんに心霊研究に手を染めつつあります。次にイギリス----これは主人側として、現在われわれをもてなしつつある国柄ですから、私から多く申し上げるスジではありませんね。われわれがイギリスで特に学ぶべきなのは、組織に関する事柄と、児童の精神教育に関する問題とです。次にアルゼンチン----南米のこの大国は、物質的にも、また心霊的にも、実に目覚ましい活躍をしつつあります。同国のスピリチュアリスト協会は、すでにしっかりした組織を持っており、同会の優秀な機関誌『コンスタンシア』は、先日その十五周年記念を発行しました。次にベルギー----これは代表のルオーム氏が、詳しく報告されるはずですから、ここで余計なことは言わずにおきます。同国に多数の熱心なスピリチュアリストが存在し、したがってその進歩の目覚ましいことは、喜ばしいことです。次にフランス----われわれは今までの成績に対して決して満足しているものではありませんが、しかし官僚主義から離れられない頑迷な社会に、スピリチュアリズム的な雰囲気が着々と浸透しつつあることは、確かに容易ならざる進歩であると、断言するのに躊躇する必要がありません。フランス心霊協会は教育事業と宣伝事業とについて、組織的な活動を行いつつあります。フランスにおけるスピリチュアリズム運動の本部は、「メーゾン・デ・スプリィ」社内に設けられていますが、ここは一切の思想ならびに報道の中心であり、書物・冊子の刊行・販売に関して最も多忙に、最も有効に努力しつつあり、霊的事実ならびに教訓に関する多くの有益な書物の発行は、どれだけスピリチュアリズムの普及伝道に貢献しつつあるか、測り知れぬものがあります。次にメキシコ----この国も、昨年以来正規の手続きを踏んで、世界連盟に加入し、宗教上ならびに政治上の多くの不安定の間にありながら、着々と主張を伝えることに努め、宗教的偏見に打ち勝って、目を見張る進歩をとげつつあります。次にポルトガル----ポルトガル・スピリチュアリスト同盟は、昨年正式に組織され、スピリチュアリズムに共鳴する多くの諸団体を統合しました。同会の指導者たちは堅実に、活発に、かつ辛抱強くこの重大な事業を遂行しています。次にスイス----ここではジェネバ心霊研究会を中心として、多くの小研究団体を各地に設け、特に心霊問題に精力を集中し、一般大衆の注意を、この方面に喚起することに成功しました。次にキューバ----ここでもキューバ心霊協会を中心に、堅実な発達を遂げ、会員数もますます増加する一方です。

 これらの諸国以外にあっては、「国際スピリチュアリスト連盟」International Spiritualists Federationに加入するための全国的組織が、未だ成立するまでになっておりませんが、思想や精神面ではわれわれと全く歩調を同じくする個人、または心霊研究会が各地に存在することは、今回の大会に、かくも多数参加せられたのを見ても明らかです。私たちはそれらの国々が一刻も早く総代表的機関を設置し、精神性において真に世界を一つにしようとする時期が、少しでも早く来るように努力せられんことを願って止みません。とりわけ、近代スピリチュアリズム運動にかけて、世界に先鞭をつけたアメリカ合衆国が、いまだに全国的代表機関の設置がないのは遺憾です。それからオーストラリアチェコスロバキアポーランドイタリア日本支那インドデンマーク、その他の欧米諸国……何とぞ、一刻も早く世界スピリチュアリスト連盟の単位たるべき、国民的スピリチュアリズム同盟本部の設立に急がれんことを切望に堪えません。

 まだまだ他にも申しあげたいことはたくさんありますが、ひとまずここで報告を打ち切ります。世界は広く、通信には時日を要します。今回世界のあちこちから、これほど多くの代表者たちが、一つの光明に導かれて、一堂に引き寄せられたということは、実に絶好の機会です。それが科学であろうが、信仰であろうが、宗教であろうが、自覚であろうが、求めるところはつまりただ宇宙の真理です。これはお互いに心を開いて、無用な形式や偏見を捨てて、談笑の間に理解し合うことによってのみ目的を達します。世界にはまだまだ慰められるべき多くの苦痛、ぬぐわれるべき多くの涙が存在します。われわれは、どうして少しでも気楽な傍観者を気取ることができるでしょうか。

 われわれのやらねばならないことは実に大きいのですが、諦めてはいけません。われわれは断じて個々のちっぽけな努力や、経験に束縛されてはなりません。世界のスピリチュアリズム運動は、世界的な自由なモノサシで計らねばなりません。国々によって性質や心情が異なり、地域が異なり、境遇が異なり、決して同一基準によることを許しません。われわれは飽くまでおおらかな度量を発揮し、どこまでも心を開いて議事を進め、人種的偏見の撤廃、平和の保証、意思の疎通、真理の浸透に貢献したいと存じます」

 マイヤース氏の挨拶は、一時間あまりを経て終りました。それから会計主任のパウシャール氏からの会計報告などがあり、最後に、三年後に挙げられるべき国際スピリチュアリスト会議の議長の選挙に移りましたが、満場一致で、マンチェスターの「ツーワールズ」誌の主筆、オーテン氏が選ばれました。この人は数年前から私と手紙の上での友人で、私にとっては世界のスピリチュアリスト中で一番なつかしい人です。したがって今回渡英後も、何はおいてもまず訪問したのはこの人でした。氏は当年とって五十四歳、頭髪は白いが元気は旺盛で、筆を執っても、演説を行っても、実に立派であるだけでなく、人物がいかにも親切で実直、スピリチュアリズム界にもマレに見る好人物です。私は、隣席に坐っているオーテン氏の肩を叩いて、

「とうとう桧舞台に載せられましたネ。おめでとう!」と言って握手すると、あくまで謙虚な同氏は、いささか恐縮気味で、肩をすぼめて小さくなっていました。

 後は音楽演奏やらパーティーで、にぎやかに散会しました。

 


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