心霊学研究所
『ジャック・ウェバーの霊現象』
ハリー・エドワーズ著/近藤千雄訳
('00.08.09登録)

第八章 上着の瞬間的脱着現象


 

 度重なる実験を通じてしばしば見られた現象に、椅子にがんじがらめに縛りつけられた状態でのウェバー氏の上着の脱着がある。

 トリックを防止するための措置には二通りある。一つは軽く引っぱっても切れるほどの細い木綿糸で一ばん上のボタンとそのボタン穴とを結びつける。ボタンをはずそうとすればすぐに切れる。

 もう一つは上着の打合わせの部分を見返しのところから裾までピッタリと縫い合わせてしまう。縫い方もいろいろ工夫をこらし、ボタンは一つ一つぐるぐる巻きにして結ぶ。打合わせ部分をあまり上まで縫い上げすぎて、首まわりがわずか六インチしかなかったことも何度かある。

 その状態で、第四章で紹介した通りの要領で霊媒の身体を椅子に縛りつける。

 実験が始まり、いろんな物品の浮揚現象がひとしきり見られたあと、支配霊の要求で霊媒の両わきの人が霊媒の手を握る。その直後、ほんの一、二秒後に上着が床か誰かの膝の上に落ちる音がする。と同時に“ライト!”の声がして照明のスイッチが入れられる。その、上着の落ちる音と照明のスイッチの音は間髪を入れずに聞かれる。

 明るい照明の中で霊媒を見ると、両手は列席者によって握られている。落ちている上着を見ると縫い目に何の変化も見られない。すばやく縫い目をほどき、上着を脱ぎ、それからまた縫い合わせたのだという考えは、まさしく奇想天外と言うべきで、まったく有り得ないことである。

 No.3No.4は脱がされる途中である。頭部と肩はまだ上着の中にあるが、腕はすでに上着の外になっているのが判る。これを普通の状態でやろうとすると、どうしても首のまわりに上着が寄るはずであるが、写真を見るとまったくそれが見られないところに注目すべきである。

 ほかにも注目すべき点がいくつかある。まず第一に、上着が脱がされても腕の部分のロープにいささかの変化も見られないこと。第二に、脱がされてからライトがつけられるまでの間隔が瞬間的だったこと。第三に、脱がされる際に物音一つしなかったこと。

 No.5は上着が完全に脱がされてこれから放り出されるところ。以上の写真を見て注目すべきことは、霊媒の頭髪が少しも乱れていないことで、いつの実験でも見られる特徴である。

 No.6では霊媒の両手が握られている状態で上着が脱がされているのが見える。(霊媒の右手を握っている男性は有名な霊媒のハロルド・シャープ氏で、本実験会は氏の邸宅で行なわれた。)

 No.8No.9は上着の脱着が非物質化(分解)現象によって行なわれている様子を示している。襟にバッジが見える。ポケットに手紙等の物品が入っている時は、それが分解されずに足もとに落ちている。この写真については第十章でさらに詳しく解説する。

 ケンブリッジ学術《リサーチ》協会のA・J・ケイス会長は一九三九年八月十二日付のサイキックニューズ紙に寄せた記事の中で、この非物質化による上着の脱着現象の真実性を次のように証言している。

 

 「中でも唖然とさせられたのは、ジャック・ウェバー氏の上着が両手を握られた状態で一瞬のうちに脱がされ、再び着せられた現象である。

 私も氏の片手を握っていた一人であるが、その私の手の甲の上にクモの巣のようなものがふわりと掛かってきて、それが次第に固くなり、しまいに布状になった。重量は感じられなかった。その間わずか数秒で、そのあと床に落ちた。そこで明かりがつけられた。見ると霊媒の上着が無くなっている。床の上着とロープの縛り具合を点検したが、打合わせ部分の縫い目もロープの結び目も前と少しも変わっていなかった。」

 

 実験後トリニティカレッジの学部長は「そのエネルギーが何であれ、あの現象がトリックでないことは十分得心がいった」と語り、インドで数多くのオカルト現象を見ているディオ皇太子とその側近の者も「詐術説は問題にならない」と語っている。(一九三九年八月十二日付サイキック・ニューズ紙)

 脱がされた上着が置かれるのは大低霊媒の近辺(六ないし八フィートの範囲内)である。支配霊からもう一度霊媒の手を押さえておくようにとの要請があり、これから上着を元に戻す、と言う。両わきの人が霊媒の手を押さえていると、上着がその脱ぎ棄てられた場所から浮揚する時にその手に触れることがよくある。数秒もしないうちに“ライト!”の声があって明かりがつけられる。見ると霊媒はきちんと上着を着ており、ロープがその上になっている。打合わせ部分の縫い目とロープの結び目を点検すると、完全に元のままである。ここで再び所要時間が重要となるが、脱ぎ棄てられた上着が浮上しはじめて明かりがつけられるまで、大低の場合、わずか五秒である。

 ここで言及しておくべき重要な事実が二つある。一つは、上着が脱がされて明かりがつけられている間に霊媒の腕のロープを点検したところ、縛り方が強すぎてロープが肌に食い込み、そのあたりが腫れ上がっていたことである。その時点で支配霊から、そのロープをずらしてみるようにという要請があったので、ほかの人といっしょにいじくってみたが、あまりにきつくて、びくともしなかった。それほどきつく縛りつけたロープの下に上着の袖を入れるのは、人間わざではまず不可能である。かりに出来たとしても相当な時間を要したであろう。

 もう一つの大切な事実は、それほどきついロープの下にあっさりと上着を着け、しかも少しもシワが寄っていないということである。

 この脱着現象については第四章で右と左のカフスボタンを木綿糸で結ぶなどの、トリック防止のために行なった様々な措置について述べてある。

 この現象をはじめて写真に撮った時(その時以来霊媒の両手を押さえることを始めた)、サイキック・ニューズ杜の編集長モーリス・バーバネル氏も出席していて、その模様を次のように報告している。

 

 「これらの写真はまさしく物質科学への挑戦である。というのは、物質科学には“絶対に有り得ない”ことが実在することを証明しているからである。

 縛りつけたロープを貫通して上着が脱がされる----これは物質が物質を貫通したわけで、上着かロープのいずれかが分解して非物質状態になったことを意味し、物質科学が否定する心霊的法則が存在する証拠である。

 物理霊媒のジャック・ウェバーはロープで椅子にしっかりと縛りつけられ、さらにその結び目を黒い木綿糸で縫いつけた。ふつうならその結び目に何らかの力が加われば糸がすぐに切れる。

 またその黒糸でボタンをぐるぐる巻きにした上でボタン穴に通して結びつけた。ボタンをはずそうとすればすぐに切れるはずである。しかし実験が終了した時点で点検したところ、結び目も糸も元のままだった。

 そんなわけで、上着の脱着を霊媒自身がひとりでやった可能性はまったくない。列席者がやった可能性も考えられない。全員が隣の席の人と手をつなぎ合っていたからである。

 これは目に見えない知的存在がやったことである。それは一体何者か。

 魔術説は問題にならない。いかなる魔術師もこれと同じ条件下では絶対に出来ないし、また、(たとえ条件を変えても)あのスピードでは出来ない。脱ぐのに三秒、再び着るのに六秒だった。(入力者注:原書を持っていないので確認できないが、ここで「魔術」とされている原語は恐らく「magic」と思われる。文意を考えると「奇術」もしくは「手品」と訳すのが妥当であろう。以降、「魔術」とされている部分は「奇術」と置き換えて読むことをお薦めしたい)

 詐術説も問題外である。」

 

 次に引用するのは心霊季刊誌ライトに発表された著名な心霊研究家B・A・コリンズ氏の記事の主要部分である。

 

 「私はここで他に類を見ない説明不可能な現象を紹介したい。(略)

 それは、ウェバー氏の上着が一瞬のうちに脱がされ、再び一瞬のうちに着せられるというもので、その重大性を認識していただくために、その過程を簡単に説明しておこうと思う。ウェバー氏は身体にぴったりの普段着のスーツを着ている。その上着の打合わせ部分を列席者の一人がごつい糸で縫い合わせてしまう。それから椅子に腰かけると、こんどはロープで縛られる。まずロープの真ん中を椅子の背もたれに結びつけてから左右の腕と脚をそれぞれ椅子の肘かけと脚に縛りつける。左右それぞれ別の人間が行なう。腕も脚もぐるぐる巻きにしながら何箇所かに結び目をつくり、最後に左右のロープの先端を結び合わせ、その結び目をさらに糸で縫いつけてから封印をする。(中略)

 それが完了するとウェバー氏の左右の座席の人がウェバー氏の両手を握る。すると自らを支配霊と名のるブラック・クラウドという霊がウェバー氏の口を使って、これから上着を脱がせる、と言う。

 そこで照明が消される。そして、ほんのちょっとの間を置いてから、また明かりをつけるようにとの要請があってスイッチが入れられる。見るとウェバー氏は前と同じ格好で縛られている。が、上着がないのである。

 その上着は本人の膝の上にあったり列席者の膝の上にあったりする。が、いずれにしても打合わせ部分はきちんと縫い合わされたままである。

 列席者全員が得心のいくまで点検し終わると、ブラック・クラウドが、これから上着を着せる、というので、再び左右の座席の人がウェバー氏の両手を握る。そしてライトが消される。が、すぐにブラック・クラウドからライトをつけるようにとの要求がある。そしてライトがつく。見るとウェバー氏は相変わらず両手を押さえられた状態で椅子に腰かけているが、こんどは元通り上着を着ている。

 事実そのものは疑う余地はない。すでに何百人もの人が“目撃している”(という言葉が適切かどうか判らないが)。私自身は右に述べたような要領で上着が脱がされたのを二度見ており、元通りに着せられるのを一度見ている。脱がされた時、ウェバー氏の両手は押さえつけられ、腕は椅子の肘かけに縛りつけられ、上着の打合わせ部分が縫いつけられている。

 魔術ではない。となると一体いかなる原理で行なわれるのであろうか。唯一考えられる説は、上着が何らかの方法で“分解”されて非物化の状態になったということである。そうしないと上着という物質がウェバー氏という物質を貫通したことになる。いずれにせよ、一部の人が言うように目に見えなくなる“擬態の上着”などで説明できる現象ではない。物品引寄《アポーツ》の現象も私がいま述べた非物質化の説によって説明できるが、懐疑的な人はアポーツの現象そのものの真実性を認めようとしない。が、上着の脱着現象だけは否定しようにも否定できない。他人の証言では得心できないというのなら、自分で(実験会に出席して)簡単に確認することが出来る。問題はその事実をどう説明するかである。信じようとしない人間はこれをどう説明するであろうか。

 スピリチュアリズム的(霊魂が演出しているという)仮説が受け入れられないとしても、少なくとも未知のエネルギーが何らかの方法で上着を脱がせているということだけは認めるべきであろう。そして、いずれ科学も物理法則によって支配されない現象が厳然と存在すること、また物的世界以外にこれまで知られなかった何かが存在することを認めざるを得なくなるであろう。

 私個人としては霊媒の“潜在意識”の仕業などという説より“霊魂《スピリット》”による演出という考えの方が愚かさの程度が少ないように思えるのである。潜在意識の仕業などというのでは何の説明にもならない。上着がどういう過程で脱がされ、どういう過程で再び着せられるかという点がまったく解決しない。やはり人間以上の知性と能力とを具えた知的存在を想定せざるを得ないのである。(後略)

 

 他にもこの現象を証言する記事がいくつかある。」

 

補 遺   一九四〇年三月

 

 写真No.7について。この写真はウェバー氏が急死する十二日前の二月二十八日に撮ったもので、これが最後の写真となった。その前の四枚も上着の脱着現象を撮ったもので、この最後のものも同じ現象であるが、前の四枚にもまして不思議な写真で、人間的な思考形体では“不可能”としか言いようがない。

 一時期、この脱着現象や一般的物理現象を休止して、赤色光の中での物質化現象に集中したことがある。その時はメガホンと飾り板《プレート》以外の小道具を持ち込まず、上着の打合わせ部分を縫い合わせることもせず、ただロープで椅子に縛りつけるだけで、途中で点検することも滅多にしなかった。

 そうした中でブラック・クラウドから“写真を!”という要請があってシャッターを切った。そのあとブラック・クラウドが言うには、上着の袖がロープの下になったまま他の部分は脱がされたものが写っているはずだという。

 出来あがった写真を見ると、たとえ人間の手でやっても、一枚の上着では絶対に不可能な現象が写っている。以来これまで列席者が同じことをしてみようと試みてきたし、一般の人にも参加を呼びかけているところである。

 写真を拡大して細かく点検すると、上着の柄と織地は全部同じものであることがわかる。

 ご覧になればわかる通り、肘かけの上の袖はロープの下になっており、肩の部分と襟も正しい位置にあるが、上着の背中の部分が身体の前に垂れ下がっている

 ウェバー氏がこの柄の上着は一枚しか持っていないこと、その日はそれ以外の上着を持ってきていないこと、従って同じ柄で同じ織地の上着がその部屋の中に存在することは絶対に有り得ないことは私が保証する。

 その写真を撮ったあと、もう一枚撮るために感光板とフラッシュのバルブを取り替えようとしているうちに“写真!”の声が来た。が、その時はまだ準備が完了していなかったのでチャンスを失った。その直後に上着が床に落ちるのがわかり、すぐさま照明がつけられた。そして上着を点検したが、いつもの上着のままで何の変化もなかった。

 かりに人間の手で同じことを演出するとして、唯一考えられる方法は、二着の上着または同じ柄の布を別に用意することであるが、そんなことを人間の手でやったらシワが寄って見られたものではない。

 心霊的に解釈した場合、上着が二つの部分に分けられ、背中の部分が襟のところから下だけ分解されて、写真に見える位置に持って来られたというのが一つの考え方である。

 そんなことをウェバー氏と語り合っているうちに、ウェバー氏から、背中の部分全体が分解されて身体を貫通して(アポーツと同じように)前に持って来られ、そこで物質化されたのではないかという説を出した。

 誰一人断定的な解釈が出来ないでいるので、私が前の説つまり背中の襟の部分から下だけが分解されて前に持って来られたという説を支持する根拠として、霊媒の下腹部に垂れさがっているのは背中の部分の襟とつながっているところで、裏地と継ぎ目が見えるのが何よりの証拠であると主張した。

 もしも人間の手で(つまり霊媒が)やったとしても、布がシワにならないようにきれいにするには、もう一人別の人間が絶対必要であり、時間も相当かかり、その上、何らかの音も出るはずであった。

 あるいはもしそれがトリックだとすれば、列席者全員が加担していたことになる。なぜなら、その時の状況からして、何をしても全出席者の目に見えたからである。

 同じ実験会の終わり近くに撮った写真は、ロープが交差している様子なども含めて、腕の縛り具合がこの写真No.7とまったく同じであることを示している。

 かくしてわれわれは、やはり人間業を超越した、超常能力を必要とする現象の写真を目の前に突きつけられているわけである。


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