心霊学研究所
『ジャック・ウェバーの霊現象』
ハリー・エドワーズ著/近藤千雄訳
('00.08.06登録)

第七章 デイリー・ミラー紙記者“カサンドラ”のリポート


 

 ここに紹介するのはデイリー・ミラー紙の特ダネ記事として一九三九年二月二十八日に二ページにわたって中央の大部分を飾った記事の転載である。

 カサンドラというのは人事百般にわたる問題に健筆をふるっている同紙の論説委員のペンネームである。その辛辣な評論はつとに有名であるが、特にスピリチュアリズムに対しては痛烈な批判を浴びせたことが何度もある。

 この時の実験会はロンドン北部のコックフォスターズ市で開かれたもので、ウェバー氏はかつてこの市には一度も来たことがなく、また出席者の中に顔見知りは一人もいなかった。

 実はレオン・アイザック氏が赤外線写真を撮ってくれることになっていて、そのための装置を会場までどうやって運ぶかの問題が持ち上がっていた。たまたまその話を耳にしたカサンドラが適当な車をもっていって手を貸しましょうということになり、それがきっかけでカンサンドラもついでに立ち合うことになったという経緯がある。つまり、お誂え向きの車をもっていたことが縁となって出席することになったわけである。

 新聞記事には中央にNo.20の写真が掲げてあり、その下に“テーブルに縛りつけられトランス状態の霊媒。テーブルが床を離れ、書物が宙を飛び交う。カサンドラ出席の実験会での写真”という説明がついている。

 「カサンドラも度肝を抜かれた交霊実験会」という見出しの記事は次の通りである。

 

 「スピリチュアリズムに対する懐疑心なら私は他のいかなる新聞のどの記者にも負けないつもりだし、昨今はとくにその度合いが強烈になっている。とにかく私はこの問題に関するかぎり心を広くもつ気になれない----はっきり言えば、未知なるものを鼻であしらう徹底した偏見の持ち主なのだ。

 少なくとも先週の土曜日まではそうだった。が、ぶざまな話だが、その土曜日をもってその偏見があっさりと、しかも急激に打ち砕かれ、スピリチュアリズムに対してこれまで繰り返し浴びせてきた嘲笑の言葉を撤回せざるを得なくなってしまったのである。

 郊外でよく見かける普通の家の小さな部屋を想像していただけばよい。その片隅に電蓄が置いてある。中央に円形に椅子を並べ、その端の一つだけ肘かけがついている。

 十二人ばかりの出席者が並んで入って来て、それぞれに席を取った。こう言っては失礼だが、セールスマンが一ばんよろこびそうな、何でもすぐに信じてしまいそうな人の集まりという印象を受けた。

 ほとんど全員が、ニセの金の延棒にすぐ手を出しそうな、純心無垢の有り難い顧客という感じだった。

 全員が着席すると、霊媒が肘かけ椅子にロープで縛りつけられた。もと炭坑夫だったというウェールズ出身の青年である。私と写真家のアイザック氏の二人だけはその円座の外に立った。やがてライトが消され、われわれは一瞬のうちに未知の世界へと入って行った。

 霊媒がゴロゴロと喉を鳴らしながら呼吸しはじめた。そこで一同が押し殺したような声で祈りの言葉を述べた。いよいよ会の始まりである。

 一同が“あまつ御使いよ、イエスの御名の……”(賛美歌)と歌い始めると、誰かが“そろそろですよ”と耳うちしてくれた。そして確かにメガホンが宙に舞い始めた。螢光塗料を塗った二本のメガホンが、まるで魚が泳ぐように部屋中をゆっくりと回り始めた時は、そこがハートフォードシャーのコックフォスターズであることを疑った。

 霊媒がいびきをかき、苦しげに呼吸している。

 賛美歌が流れ、メガホンが飛び交う。

 誰かがレコードをかける。それに合わせてわれわれも“ヒナギクよ、ヒナギクよ、さあお前の返事を聞かせておくれ”と歌う。するとメガホンが天井を叩いて拍子をとった。

 鈴の音が聞こえる。

 どっと笑い声が立った。そして、いささかヒステリー気味に“みやこの外なる丘の上に”という賛美歌をうたったかと思うと、続けてこんどは“ジョン・ブラウンの遺骸”という、ひどく俗っぽい歌をうたった。

 “神は愛なり”という文字の入ったタンバリンが、どう考えても信じられないような動きをみせながら、われわれの頭上をやかましく飛び交った。

 霊媒の荒々しい呼吸がまだ続いている。その位置からずっと離れたところに浮揚しているメガホンの一つがコンコンと音を出したかと思うと、その中からかすかな人間の声が聞こえてきた。子供の声だ。それが寂しげな調子ではあったが“とても、とてもうれしい”と言う。ほかにも何人かの声がした。

 水が撒かれた。(会が始まる前には水はどこにも無かった)そして書棚から書物が抜き取られて床に落下した。

 テーブルが動いた。

 霊媒は相変わらず椅子に縛られたままである。

 ぜんまい仕掛けの汽車が床を横切って走った。

 突然、重いテーブルがゆっくりと上昇しはじめた。そのすぐ横の席の人がおだやかな声で“テーブルが無くなりました”と言う。すかさずアイザック氏がその方角へ向けてフラッシュを閃《た》いた写真(No.23)がそれである。

 実験中霊媒は一度も席を立たなかった。これは私が誓って保証する。

 上昇したテーブルが円座の中央にゴツンという大きな音を立てて降りた。その上に置いてあった書物はそのままだった。

 列席者のうち誰一人としてそのテーブルに手を触れていないことを私は誓って断言する。そのテーブルはよほど頑丈な男でないと一人では持ち上げられないほどの重さがあり、私は会が終わってからそれを持ち上げてみて確かめている。

 もうこうなっては、どんな皮肉を言ってもしょうがない。どんな異説を立ててみてもしょうがない。

 それが何を意味するかは私にはわからない。が、こうした不可思議で、いささか度肝を抜かれるような現象がこの世にあるのだということだけは確かだ。

 私はその現場にいたのだ。実際にこの目で見たのだ。本当は物笑いのタネにしてやろうと思って行ったのだが……

 しかし今やその嘲笑がゆっくりと私の方へ向きを変えて来つつあるのだ。

カサンドラ(署名)」


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