心霊学研究所
『ジャック・ウェバーの霊現象』
ハリー・エドワーズ著/近藤千雄訳
('00.08.03登録)
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一九三九年二月二十七日月曜日、私はジャック・ウェバーによる物理実験会に出席した。自分自身の霊媒としての経験から、列席者には適度の警戒心と理知的かつ批判的態度が必要であっても、あまり度が過ぎてはいけない(そうした精神的態度から放射される意念が現象を邪魔する)ことを十分承知はしていたが、それでもその日の私はその“適度”の限界を超えた警戒心をもって臨んだ。 列席者の中で、霊媒と個人的に通じ合えそうな人間、あるいは(対立関係にある人からみて)霊媒と共謀詐術をしそうな人間としては、バラム心霊研究会の会長であるハリー・エドワーズ氏----今回の実験会も氏の主催による----とウェバー氏の義父(奥さんの父親)の二人であった。 そこで二人は霊媒から最も遠く離れた位置に席を取った----エドワーズ氏は霊媒とは正反対の、部屋の端の中央、義父は同じくその正反対の側の隅で、ちょうど霊媒と対角線の位置になり、そこに電燈のスイッチがある。 その日の現象で二人に操作可能な範囲内で起きたものは一つもなかったし、かりに、いついかなる方法で座席を離れたとしても、列席者の半分の目にはとまったはずである。また二人は霊媒をロープで椅子に縛りつけたり、コートの打合わせ部分を縫い合わせたりする作業には参加していない。 私は霊媒から四つ目の、ドアのそばに席を取った。今回は(赤色光も使用せず)暗闇の中で行なわれた。 私は霊媒の腕と足首の縛り具合をとくに念入りに調べた。二人の男性が縛ったせいで、結び目の固さとロープの締め具合はまずもって奇術的なトリックの入る余地はなく、一度抜けたら二度と元通りには戻せないと思われた。ロープは皮膚にかなり食い込んでいる。そして足首がしっかりと椅子に縛られているので、両手足とも関節から上の筋肉は絶対に動かせない。 さらに私は(それと気づかれないように)二本のロープが前腕の下で交差している部分のその交差の角度を正確に見届けておいた。かりに霊媒がその腕を抜いて再び元通りに突っ込んでも、その交差角度を正確に元のままに留めておくには、目で見ながら両手を使わなくては絶対にできない。霊媒一人では照明下でも出来ないし、他の誰かが手を貸すにしても、暗闇では不可能である。 霊媒が椅子に縛りつけられるに先立って、霊媒の上着の打合わせ部分がぴっちりと縫い合わされた。これを脱ぐためには、かりに両手が自由に使えても、まずその縫い目をほどかなくてはならない。私はその縫い目を細かく点検し、その念の入れ具合を確認した。縫い合わせた糸の余りをいくつかのボタンに巻きつけてあり、縫い目をほどこうとすれば糸が切れる仕掛けになっている。 実験の終了後、その縫い目をはさみで切りほどくのにも数分を要している。 さて、ライトを消すと同時に二本のメガホンによる最初の現象が起き始めた。“同時に”というのは、高速度カメラを少しばかりいじくったことのある私の判断では、十分の一秒ていどの間隔と思っていただけばよい。長さ二フィートほどのメガホンには暗闇でも見えるように螢光塗料がたっぷりと塗ってあり、霊媒が手を伸ばしても届かないところに置いてあった。 まずそのうちの一本がすごいスピードで上昇し、一瞬の間隔を置いてもう一本も上昇して、二本がいっしょに動きまわる。その動きの方向、角度、小さい方の口(ここには塗料は塗っていない)の位置、等々が他の部分に塗ってある塗料の輝きで明瞭に確認できた。 二本はまず広い方の口を上にして三フィートほど上昇し、そこで水平になり、たいてい小さい方の口を霊媒の方向へ向けて、霊媒から七、八フィートの間隔(すなわち椅子の端から広い口まで。従って小さい口までは五、六フィート)のところで自在な動きを見せる。時にはクルリと急に向きを逆にし、広い口を霊媒の方へ向けることもあったが、これはいかなる道具を使っても人間わざでは絶対に出来ない芸当であった。 その間、私も含めて列席者はからだのどこかを何べんもメガホンで叩かれた。はっきりと感じるほど叩かれる。霊媒も頭と胴を叩かれた。会の後半になって十二、三フィートもある天井まで上昇して中心部を叩いたり、こんどは二本が左右に分かれて壁を叩いた。その時の両者の距離と高さを考えると、人間がたとえ自由に動いて椅子とか台を使っても、一人では絶対に出来る芸当ではなかった。 現象の途中でたびたび霊媒の支配霊から“ライト”の声がかかり、即座にスイッチが入れられた。明るくなった部屋でメガホンが相当なスピードで床へ向けて降下するのが見える。支えを失って落下するのではない。そして床に降りても少しの間----ある時は三十秒ほども----軽い動きを続けている。惰性で転がっているのではない。広い口を下にしてピョンピョン跳びまわったのである。 こういう具合に、突然ライトがつけられる度に霊媒に目をやると、相変わらずロープでしっかりと縛られて、結び目もロープの交差の角度も変化がなく、入神中の霊媒によく見られるように身体をよじることもなかったことが確認された。その状態の中で、一秒の何分の一かのスピードでメガホンが動きまわったのである。それはロープから抜け出ないかぎり絶対に不可能なわざであった。手には何も握られていないし、遠隔操作をするための道具を隠し持っている可能性もゼロだった。 螢光塗料を塗った二枚の飾り板《タブレット》が最初は別々に、二度目は同時に、メガホンと同じ方向へ舞い上がった。そして一度はその螢光塗料の照明で霊媒とすぐそばの列席者が照らし出された。その時霊媒は完全に椅子に縛りつけられており身動き一つしなかった。こうして現象と霊媒および列席者が何の(人為的)関係もないことを示してくれたわけである。ついでに言えば、列席者は全員が隣どうし手をつなぎ合っていた。 二枚のタブレットは霊媒の椅子から四フィートの位置の空中にあり、点燈すると床に降りて平たく置かれた。消燈すると同時に、それこそ瞬間的に、上昇したことが何度かあった。これを普通の人間がやろうと思えば、即座に席を立って素早く拾い上げるか、それとも遠くからつまみ上げる器具を使用していなければならないところで、時間的にも、また全員が手をつなぎ合っていることから考えても、そんなことの出来る人間はその場には一人もいなかった。 また、かりに誰かが椅子に腰かけたまま、あるいは椅子から離れて、あるいは椅子を動かして何かをしようと思えば、ちょっとした動きでも椅子の音がするはずである。しかし実験中にその種の音はいっさい聞かれなかったことを私は十分に確認している。 ライトを消すと同時に、霊媒のすぐそばのテーブルに置いてあったタンバリン一つと数個の鈴(すべて螢光塗料を塗ってある)がそれぞれの音を出しながら床から七、八フィート、霊媒から六、七フィート離れた、部屋の中央あたりに浮揚し、ライトがつけられるまでその位置に留まっていた。これは他の現象と同じく何回も繰り返し起きた。 同じく螢光塗料を塗った二つのカスタネットが部屋の中央のほぼ十フィートの高さ(天井近く)まで上昇し、その位置で約三分間列席者の歌に合わせて正確なテンポで力強く拍子をとった。ライトをつけるとその“中空”から床へ落ちた。 次は物質化現象であるが、実験の途中で私が霊媒の縛り具合を改めさせてもらってライトを消すと同時に、物質化した手が私の額と頬を軽く叩き、次に額と後頭部を同時に押さえ、さらに肩とひざを叩いた。私を含めて列席者は全員手をつなぎ合っている。私の両側の人も同じように叩かれたと言い、他の列席者からも次々と同じ報告があった。遠く離れた二人の列席者から同時に報告を聞かされたことが一、二度あった。 次は直接談話を伴った物質化現象で、私のよく知らない婦人----私が確実に知っているのはその人が英国人ではないこと、この実験会のレギュラーで他の霊媒の交霊会にも数多く出席している人で、まず霊媒との共同詐欺などする人でないということである----が、小さい子供の手が自分の手を握っていますと報告した。婦人は両側の列席者と手を握り合っているので、当然、その片方の列席者(男性)の手にもそれが分かって、同じことを報告した。続いてその子供の声がして名前を告げた。その子はその婦人の“死んだ”女の子で、こうして出現したのはこんどが始めてだと言う。そして婦人にそういう夭折した子がいるという事実は、霊媒のウェバー氏にも列席者の誰にも知られていなかった。 別の直接談話現象では私の二人の(他界した)友人がメガホンを使って私に話しかけて来た。二人とも絶対的と言えるほどの証拠性のあるメッセージはくれなかったが、私個人は心情的に二人であることを十分確認できた。声とイントネーションの点で二人はそれぞれはっきりとした特徴があり、いずれも霊媒のそれとはまったく異なるもので、いわば絶対モノマネのできる性質のものではなかった。 また声の出てくる位置が私の顔からわずか二、三インチのところで、そこまで霊媒が出て来ようとすれば少なくとも左右六人の列席者には知れたはずである。メッセージの中には私の健康状態に正確に言及した部分があり、それは見て分かる性質のものではなく、誰にも知られておらず、また少なくとも私の知るかぎりでは霊媒のウェバー氏も知り得ないことであった。 もう一人の婦人が、霊媒からさらに離れた位置で、私と同じようにすぐ近くから話しかけられている。その霊はフィリス・ガニングという姓名をはっきりと述べ、その婦人はこれを確認している。霊の方から名のるまでその婦人はその姓名を口にしていない。 他にも何人かの列席者が直接談話で証拠性のあるメッセージを受けている。声の質もアクセントも一人一人違っていた。 さてライトがつけられ、煌々たる光の中で霊媒の点検がなされた。ロープの縛り具合、結び目、上着の打合わせ部分の縫い目が元通りであることを確認したあと、一たんライトが消され、わずかな間を置いてから再び点燈された。 見ると霊媒は相変わらず椅子に縛りつけられ、ロープに少しの乱れもない。私が密かに注目していた二本のロープが腕の下で交差している角度もそのままで、これは、たとえその縛り方がゆるくて自由に腕を出し入れ出来ても、(暗闇の中では)見ることも乱れを直すことも出来なかったであろう。 ところがその状態の中で上着が脱がされて足もとに落ちているのである。打合わせ部分の縫い目を確かめたが、元のままである。 それからライトが消され、すぐまた点燈された。見ると霊媒が元通り上着を着ている。袖口も乱れていない。これは、もしも上着を着たままロープの中に突っ込んだとしたら絶対に有り得ないことだった。というのは、ロープは上着の上から相当きつく縛られていたからである。しかも、消燈して点燈するまでわずか五、六秒だった。 実験中に時おり本ものの雨、小さな冷たい雨つぶが列席者の顔にかけられた。 最後に、霊媒のすぐ斜めうしろにテーブルが置いてあり、そのすぐ前に二本のメガホンが立ててあったが、そのテーブルが部屋の中央に運ばれてきた。その間、二本のメガホンはずっと私の目に見えていて、テーブルによって遮られることがなかった。ふつうの運び方で運ぼうとすれば当然それを持ち上げなければならない。しかも、すぐ前のメガホンに当たらないようにするには五〜六フィートは持ち上げ、列席者の頭上を通過しなければならない。が、メガホンは揺れもせず倒れもしなかった。 以上、二時間にわたる物理的心霊現象の中で、私が懐疑的態度で厳しく観察しなかった現象は一つとしてない。しかもその全てが私に、それが本質的に完全に人間の常識を超えたものであり、そう考えるよりほかに解釈の方法がないことを得心させてくれた。 |