心霊学研究所
『ジャック・ウェバーの霊現象』
ハリー・エドワーズ著/近藤千雄訳
('00.07.29登録)

第四章 トリックの防止装置


 

 霊媒によるトリックを防止する措置としてずっと行なってきたのは、長さ十五フィートのロープで霊媒をウィンザー型の木製の肘かけ椅子に縛りつけるという方法である。時にはわれわれ主催者と無関係の人から提供されたロープを使ったこともある。また短いロープを何本も使用し、その上に腕と脚をテープと紐で留めたこともある。

 縛るのは出席者の誰がやってもよい。何百回にも及ぶ公開実験では、腕ききの結び職人、船乗り、警官、心霊研究家等々によって行なわれたことがある。

 その上にさらに施した措置は、縛り上げたロープの両端を縫い合わせてエンドレスにし、さらにその継ぎ目と結び目をワックスで塗り固め、そのワックスの上に出席者から提供してもらった印章《シール》で押印したことである。

 さらに、霊媒の片方の親指のつけ根のところに長さ十五インチの木綿糸、時には毛糸を結びつけ、小さな紙切れに針で穴をあけてそれを通し、もう一方の親指のつけ根に結びつけた。そうしておけば、二個ないし三個の物品が浮揚したとき、もし霊媒が手を使ってそれを操れば、その木綿糸や毛糸を切らずに行なうことは物理的に絶対不可能ということになる。もっとも実験には浮揚した物品どうしの距離は、たとえ両方の腕を自由に使っても届かないほど離れていた。

 一九三九年にロンドン・スピリチュアル・アライアンスの会場で行なった数多くの実験では、主催者のアライアンスが提供した長いロープを使用し、そのロープの使い方もあらかじめ計画してあった。

 まずロープの中央を椅子の背にコマ結びにして固定し、霊媒の身体を四重巻きにし、一回ごとに椅子の背に結びつけた。また両方の上腕部を背もたれの支柱に二重に巻いて結び、前腕部を肘かけに数回ぐるぐる巻きにした。そして余ったロープで両脚と踝《くるぶし》のところを椅子の前脚に固定した。最後にロープの両先端は強い糸で縫い合わされ、ワックスで塗りつぶし、シグネットリング(印章つき指輪)で押印した。

 こうした場合の気づかいとして(よくするように)ロープは血行を阻害しない程度に縛られた。が、ある実験会では約二時間の実験の最中から腕と脚が腫れ上がりはじめ、終わった時にはロープが肌に食い込んでいた。そしてロープの跡が数時間のちまで残っていた。

 このロンドン・スピリチュアル・アライアンスにおける実験会では実に多彩な現象が見られたが、そのうちの次の二つは紹介しておく価値があろう。

 まず霊媒のウェバー氏を右と同じ要領で縛り上げ、ウェバー氏が用意してきたロープは椅子のすぐ近くに置いた。ところが実験が始まると“見えざる手”がそのロープを使ってウェバー氏のすぐ隣の席にいた列席者を椅子ごと縛り上げ、さらに円座の差し向かいの席まで伸びて、椅子の座の部分のすぐ下のところと四本の脚のまわりを巻いて、再び元の人のところに戻り、その人をもう一度縛った。そして残りのロープは一ばん先端がどこにあるのかが判らないほどに、だんご状にまるめられた。

 実験が終わってからそれを解《ほど》こうとしたが、どうしても解けないのでついに切断しなければならなかった。

 もう一つは別の実験会でのことだったが、霊媒を右と同じ要領で縛り、両手を両わきの列席者が握った状態で霊媒の上着が脱がされた。そのとき分かったのであるが、霊媒の肘《ひじ》のあたりを巻いていたロープが、ちょうど同じ位置に付けていた腕章の下になっているのである。つまり最初ロープを巻きつけたときは上着の上にあったそのロープが、そのとき下にあった腕章のさらに下になっていたのである。

 もしも同じことを普通の状態で行なうとすれば、まず縫いつけられてワックスで塗り固められたロープの先端をほどき、結び目を腕章のところまで順次ほどいていって、それを腕章の下に通し、こんどは逆の順に結んでいって最後に先端を縫い合わせてワックスで固め、その上に印を押さなくてはならない。

 あとで上着が元通りになった時には、ロープはちゃんと上着の上になっていた。支配霊のブラック・クラウドの説明によると、上着を脱がした時に腕章もいっしょに分解してロープの外側に再物質化したという。さらに上着を元に戻すときはロープを上着の上にもっていくために同じ操作をくり返している。

 ロープのもう一つの使い方は、霊媒が一たんロープから抜けるとそのロープが一つの輪《ループ》になってしまう方法で、霊媒一人では絶対に元通りには出来ないわけである。

 実験中たびたびあったことだが、ある現象の直前または直後に素早い操作を手ぎわよくやらねばならない時は自色電燈がつけられる。たとえば霊媒を縛った人がブラック・クラウドに呼ばれてロープその他が元通りか否かを確かめるように言われるなどがそれである。が、縛り方が変化していたことは一度もないし、会の終了後に見ても、それがどんな現象であっても、縛り方は初めとまったく変わりなかった。

 第六章で新聞記者のコリン・エバンズ氏がその点について詳しく叙述してくれている。

 が、同時に、いかに手の込んだ方法で縛り上げても、霊側が霊媒をはずそうと思えばいとも簡単であった。これは霊側が見せた驚異的現象の中でもとりわけ驚異的なものだった。

 手順はこうである。まず明かりをつけて霊媒が縛られている状態を確かめさせ、ロープの縛り具合と結び目を点検させ、それから明かりが消される。消したと思った瞬間に“明かり!”の声がする。明かりをつけてみると霊媒が円座の反対側に立っている。その間わずか二、三秒である。見るとロープは縛った時とまったく同じ状態で、ロープとロープが交差したところもそのままで、まるでその中に霊媒がいるかのようである。

 ふつう、二人の人間が一本のロープで霊媒を椅子に縛りつけるのに二分ないし四分かかり、それを解くのにはそれ以上かかる。結び目に念が入っている時はもっとかかる。

 霊媒が元の椅子に戻されるのもあっという間の出来ごとで、五秒ないし十秒しか掛からない。まず霊媒が椅子から遠く離れた位置に立っている。明かりが消される直前に、その位置でぐるぐる旋回するのが見える。やがて明かりが消される。直後に椅子のあたりからかすかな音が聞こえる。と思った瞬間“明かり!”の声がする。明かりをつけてみると椅子に霊媒が縛られている。細かく点検しても、始めに縛った時と寸分の違いも見出せない。

 似た現象でこんなケースもある。

 明かりがつけられ、ロープを点検する。するとブラック・クラウドから誰か二人で霊媒の両手を押さえておくようにという要求がある。そして列席者の二人がそれぞれ霊媒の片方の手を押さえると明かりが消される。次の瞬間その押さえていた二人の手がストンと肘かけの外側に落ちる。と思うと霊媒がロープから抜けて、すっくと立ち上がる。抜け出ようとしてもがく気配がまったくないのである。

 何回か、霊媒の身体が浮揚して円座の向かい側の外へ降ろされた。列席者は席を詰め、しかも隣どうしで手を握り合っている。従ってそのような行動をとるためには、霊媒は一たん宙に浮いて列席者の頭上を通過しなければならないはずである。

 時には浮上したまま数分間静止し、足を一人の列席者の両肩に置いた。するとブラック・クラウドがその列席者に手でその足に触わってみるようにと言う。そこでその人は霊媒の足の外側を撫でるように上へ向けて触わってみた。

 そうしている間中、霊媒は頭また手、あるいはその両方で天井を激しく叩いていた。

 この現象で面白いのは、霊媒が列席者の肩に乗ってもまったく体重を感じなかったことである。やがて霊媒は円座の外側の床の上に置かれる。

 この現象は大低実験会の終盤に起きた。そして霊媒はその置かれた場所で入神から目を覚ます----立ったままの姿勢で。その時ロープは椅子に縛られたままになっている。そこで列席者がそのロープの中に入って、霊媒が縛られたのと同じ状態になれるかどうか試したことがある。

 筆者と、もう一人の女性----二人ともウェバー氏より骨格は小さい----が腕と脚をロープの輪の中に入れようとしたがダメだった。かなりの時間頑張ってみたが、靴を脱いでやってみてもうまく入らなかった。

 一度なんとか片腕を入れるのに成功した者がいたが、ロープの位置ずれ、上着のそでがうまく入らず、ひどいしわになった。その後の実験でも、うまく入ったことは滅多になかった。まして、上腕部のロープに腕まで入れることは通常のやり方では絶対に不可能だった。

 しかも、通常のやり方で入れようとすると椅子がゴトゴトと音を立てた。従って霊媒が一瞬のうちに椅子に戻された時にかすかな音がほんの一回聞こえただけということは注目に値しよう。

 一九三九年六月にはBBCから三人の代表が出席した。スタジオ外放送局長と二人の解説委員である。そしてその三人が霊媒を縛った。この時は、縛り上げたあとロープの両先端と結び目の一つ一つに木綿糸をゆわえつけ、余った糸で霊媒の片腕を肘かけごと巻いてからカフスボタンをぐるぐる巻きにし、腹部の前を通ってもう一方のカフスボタンをぐるぐる巻きにし、さらにその腕も片方と同じように巻きつけた。

 そうした状態で、しかも二人の解説委員が霊媒の両手を握っている状態で、霊媒の上着が脱がされた。脱がされた上着が床に落ちた直後に明かりがつけられ、右の二人が点検したが、木綿糸は切れていなかった。

 そのあと上着が元通りに着せられたが、カフスボタンその他をつないでいる木綿糸もまったく元のままだった。実験会の終わりにも局長が改めて総点検したが、すべてが元の通りであることを断言した。その時ブラック・クラウドが局長に、腹部の前を通っている糸を切ってみて下さいと言う。局長はそれをいとも簡単に切った。

 これによって、もしも通常の人間的操作でやっていたら、ちょっとした身体の動きでも糸が切れていたはずであることが証明されたわけである。

 このほかのトリック防止措置については後章でも言及するが、これまで紹介した措置を読まれてもなおかつ霊媒が巧妙なテクニックでロープの間を出入りしているのだと考える方のために、もう一つだけ決定的なものを紹介しておこう。

 ある日の実験会で、霊媒を縛るとすぐ明かりが消された。それとほぼ時を同じくして一本ないし二本のメガホンが宙に浮いて霊媒のまわりを旋回しはじめた。旋回が終わってメガホンが床に降りた。その瞬間に“明かり”の声がして明かりがつけられた。

 メガホンが旋回した位置は時には霊媒から数フィートも離れていたこともあり、床に降りた時の位置もかなりの距離があった。

 メガホン現象の時はその置かれる位置が霊媒が縄抜けしないかぎり絶対に手の届かないところであるのがしばしばである。このメガホンの場合にかぎらないが、他の現象の場合でも消燈した直後に現象が始まり、終わった直後に点燈されたという事実は、現象が霊媒の操作ではなく、何か超常的な手段が使用されていることを証明するものと断定してよいであろう。

 霊によるメガホンの操作は実に巧みで、その速さは正に電光石火という言葉がぴったりで、その上驚かされたのは、明かりがっけられてもまだ旋回していることがあったことである。(第六章のエバンズ氏の記述を参照されたい。)

 ロープで縛る第一の目的はむろん霊媒が意識的ないし無意識に操作することを防ぐことであるが、同時に、そうすることによって霊媒が、意識的にせよ無意識にせよ、あるいは詐術的にも、いっさい現象に加わっていないことを証明して、列席者を得心させる効果もある。というのも、霊媒現象の大きな目的の一つに、われわれ人間をはるかに超えた知識をもつ目に見えぬ知的存在によって演出される超常現象を通じて、人間の死後存続の証拠を提供するということがあるからである。

 さらに、赤外線照明を使用しての実験会が、人知を超えたエネルギーを使用する霊の威力を一段と強力に説明している。赤外線照明の中で物体が浮揚する現象が繰り返し観察されている。その間霊媒は椅子に縛られたままで、指一本触れていない。それなのにメガホンその他の物体が部屋中を旋回し、上下し、回転し、反転し、そのほかありとあらゆる運動をくり広げるのである。

 あるいはまた、霊媒の太陽神経叢そのほかの箇所から出て来たエクトプラズムによって強力に支えられて動くこともあった。(第十四章参照)


三章に戻る目次第五章「サンデーピクトリアル紙記者バーナード・グレイ氏のリポート」に進む

心霊学研究所トップページ