心霊学研究所
『ジャック・ウェバーの霊現象』
ハリー・エドワーズ著/近藤千雄訳
('00.07.26登録)

第二章 霊媒ジャック・ウェバー


 

 ジョン・B・ウェバー、通称ジャック・ウェバーは一九〇七年、英国の南ウェールズ州の生まれである。

 子供時代はほかの子供と変わらない普通の子だった。もっとも、普通よりは少し放任主義的な環境で育ったようである。学校を欠席しても別に咎められるようなこともなく、従ってあまり教育は受けていない、といったことなどからそれが窺える。

 十四才の時に炭坑夫となり、一九三六年まで十三年間も従事した。その期間の後半は昼間地下で石炭を掘り、夕方家に帰ると霊媒としての仕事をするという、二重の生活をしている。この二つの肉体労働による疲労はやはり耐え切れるものではなく、ついに坑夫の方をやめた。

 成人して間もない頃、一時救世軍の楽隊のコルネット奏者をしたことがある。母親が救世軍の熱烈な隊員であったことからそうなったのだが、一方父親の方はプロテスタント教会の鳴鐘係をしていた。

 二十一才の時にローダ・バートレットという女生と知り合い、二年後の一九三〇年に結婚している。二人の間に二人の男の子がいる。デンジルとジョージである。

 実は奥さんのローダの家庭が熱心なスピリチュアリストで、二人が初めて知り合った頃は自宅で霊能開発のためのホームサークルを幾つか開いていた。

 ウェバー氏が今日あるのは、他ならぬその奥さんとエバンズ夫妻(奥さんのご両親)の並々ならぬ忍耐と誠実さのおかげであり、同時に、いま心霊治療家として、講演者として、またまた霊視家として名声を馳せているもう一人の娘さんのウィニー(のちのルーク夫人)のおかげでもある。

 が、奥さんと知り合った頃のウェバー氏にとってはスピリチュアリズムは、本人の言葉を借りれば“バカげたこと”だった。ホームサークルに出席したのも奥さんといっしょにいたいという、ただそれだけの理由からで、退屈のあまりウェバー氏はきまって居眠りをするのだった。

 そのサークルはその頃はテーブル現象を目的としていた。そしてテーブル現象につきものの叩音《ラップ》による通信がよく来た。ウェバーはそれを頭から信じようとしなかった。ある夜ウェバーは悪ふざけを思いつき、テーブルに操作を施して、間違った通信が出るようにしておいた。ところが驚いたことに、彼としては絶対に大丈夫と自信をもっていたにもかかわらず、きちんとメッセージが来た。さらに驚いたことに、そのメッセージがある婦人が無くしていた大金の入ったハンドバックの所在を正確に指示して来たのである。

 このことがあってからウェバーはホームサークルというものについての考えが変化しはじめ、興味をもつようになった。

 その後ウェバー自身の背後霊から数日間行方不明になっている男性の遺体が近くの川の橋のそばにあることを告げて来て、それが間違いなくその通りであることが判明した。またある時は友達に仲間の坑夫が死んだことを告げた。三人はその日の午後ずっといっしょに働いていて、別れる時も異常はなく、至って元気だった。当然のことながら友達はそれを聞いてバカを言うなと取り合わなかった。ところがあとでそれが事実であることが判明した。その仲間はその日の午後自宅のティーテーブルに向かって腰掛けたまま死んでいたという。

 その後サークルはテーブル現象から入神現象を目的としたものに変わっていった。そして二年後にはウェバーも半入神状態に入るようになっていった。

 入神できるようになれば、次はスピリットによって心身の支配を受ける訓練になったが、このサークルは次第にウェバー氏の今日の仕事のために氏の背後霊が活躍する場となった。がその過程は平坦なものではなかった。慣れない背後霊が乱暴に氏の身体を使おうとするので、ハラハラさせられる場面がしばしばあった。

 総指揮をする中心的支配霊はブラック・クラウドと名のった。初期の頃はオモチャの楽器などを霊媒(ウェバー)のそばに置くように要求し、その後すぐメガホンも加えられた。最初はそうした小道具が少し動いたりラップ(叩音)が起きる程度だったが、間もなく急激な変化を見せはじめ、メガホンなどが浮揚しはじめた。

 ウェバーをキャビネット(カーテンで仕切られた暗室)の中に入れようという案があった。が、ウェバーの性格からすると、そういう隔離された場所に隠れるということはある種の疑いを招きかねないという考えがあった。結局ウェバーはこれまで一度もキャビネットを使用したことはない。サークルに混じって、列席者と同じように腰掛けた。さらに用心として、まず第一に手足をその椅子にロープで縛りつけられた。ジャック・ウェバーの霊媒現象はこうした条件下で行なわれるようになり、今では背後霊もそうした条件に慣れっこになっている。

 このほかに霊媒の不正行為を防ぐ方法として、拘束服を着せることや袋に詰めて縫い上げてしまうことや、ケースの中に閉じ込めてしまうことなどが心霊家から提案された。が、次の三つの理由からそれは拒否された。まず第一に、せっかく背後霊がやり慣れた条件を根本的に変えてしまうこと。第二に、いくら実験とはいえ、あまりに奇抜なことや霊媒の“自尊心を傷つける”ようなことまですべきでないこと。そして最後に、そうまでしなくても、次章で述べるような赤色ランプを使用すれば、あとは普通の事前措置さえ怠らなければ充分であること。

 実はこの段階でもウェバーはまだ自分を通じての霊力の働きに対して懐疑の念を棄て切れずにいた。自分の心霊能力に確信を抱くようになったのは、みずから別の霊媒による実験会に何度か出席して同じような現象を目撃し、同席した人々といっしょにそれを確認してからであった。

 ところがウェバーはやがて強力な治療能力を発揮しはじめた。それは主としてマロダールと名のる若いエジプト人が支配した時に見られた。単に心霊治療を施すだけでなく、各種の薬草を採取して、それを調合することまでやり、その規模が次第に大きくなっていった。本人の語ったところによると、ボンヤリとした半覚醒状態のまま家から連れ出されて、近くの薬草の繁っている湿地帯や野原へ行って採取し、それを持ち帰って、病気に応じて調合したという。しかし、そうした治療活動による肉体的疲労があまりに大きいために、物理現象の発達と共に、支配霊の許しを得て治療活動はやめることになった。

 

補遺  一九四〇年五月

 

 一九四〇年初頭のことであったが、サークルのメンバーの一人であるスタンレー・クロフト氏が非常にふさぎ込んだ様子でその夜の交霊会にやって来た。聞くと英国南西部に疎開(第二次世界大戦のため)している娘さんが毒血症で入院し、生命の危険があるという。

 そこで、会が始まるとすぐウェバー氏の治療担当背後霊団に救助を求めたところ、何とか手を打ってみましょうと言う。しばらくしてその中でも中心的指導霊であるマロダールが出て、メガホンを通じて、いま患者のところへ行ってみたが毒を抜き取る必要があるので、これからもう一度行ってくると言う。同時に彼は、証拠的価値のある事実を述べた----その毒は何かの昆虫が頭部を刺したために入ったのだと。

 その時点では虫に刺されたことまで聞き出しておらず、従って病院側はその病気の原因がさっぱり判らなかった。

 クロフト氏はさっそくそのことを病院へ知らせ、虫に刺されたかどうか本人に確認してみてほしいとお願いした。本人はそのことを問い質されてはじめて、症状が出る一日か二日前にハチが髪の毛にからまって、それを取り出そうとしたときに刺されたことを思い出した。

 本人も母親も病気とその事実をつなげて考えていなかった。この事実は、スピリットの診断力のすばらしさを証明すると同時に、それがテレパシーによるものでないことを明らかにする結果となった。

 二、三日もすると毒がすっかり無くなり、完全な健康体に復した。

 薬効のあるオイル性のものがウェバー氏の両手からにじみ出る時の光景は実に目を見張るものがあった。ウェバー氏が入神状態で患者のわきに立っていると、両手から濃厚なオイル性のものがにじみ出てくる。べっとりとしているので、まるでワセリンの缶に手を突っ込んだのかと思われるほどである。その手で患者の肌をマッサージするのだった。

 目標としている現象に備えてスピリットが霊媒を鍛練するのは養成会の時だけにかぎらなかった。夜中にも引き続いてさまざまな現象が起きた。大きな音がする。毛布がベッドから引きずり下ろされる。オイルランプのほか、あれこれとこまごましたものが置いてあるテーブルが宙に浮いて横向きに倒され、そのまま床に下りてもランプのオイルは一滴もこぼれず、物一つ落下しない。そしてやがて元の位置に戻される。声も聞かれた。あまりのひどさにウェバー氏が“静かにしてくれ”と大声で怒鳴ることも度々あった。

 年齢とともに霊媒としての能力が次第に発達し、メガホンを使っての声、及びメガホンなしで聞こえる声がだんだん大きくなって行った。頭部(顔)や手先の物質化現象も見られるようになった。そしてついに心霊仲間の要請でやむなく見知らぬ人の前で披露することになった。

 実を言うとウェバー氏自身はつい最近までこうした現象を怖がっていたのである。実験会では、ウェバー氏が着席して明かりが消されるとすぐ、まだ氏が入神しないうちから音がしたりメガホンその他が空中を舞い出す。それをウェバー氏は入神してしまうまで、つまり意識が無くなるまで怖がっていたのである。

 今では怖がらなくなりつつある。というのも、赤色光での養成会でも同じように無意識にならないうちから声やメガホンなどの現象が起きているからである。最初のころは二、三秒間しか続かなかったが、週ごとに徐々に長くなって五分ないし十分となり、今ではウェバー氏自身もその現象の一部を見たり、自分の背後霊の話を聞いたり、こちらから話しかけたりできるまでになっている。

 ウェバー氏は控え目な性格である。学識はほとんど無い。陸上競技が好きで、投げ矢遊びが大好きな人であるが、同時に、自分に出来うるかぎりの援助を惜しまない人である。他界した肉親縁者からの慰めを必要とする人には、たとえ謝礼が通常の何分の一しか払えない人でも、氏は決して断わったことはない。

 霊の世界についての知識を求めようとするわれわれの努力に、氏はいつも快く協力してくれている。

 ここでウェバー氏の現時点での背後霊を紹介しておく。(背後霊は年齢とともに必要に応じて入れ替わることがある----訳者)

 

ブラック・クラウド
モーホーク族のインディアン。交霊実験会の最高責任者で、霊媒の身体を直接コントロールする。はじめて出現した時は英語がしゃべれず、ある程度の英会話を勉強するために、しばらく留守にしたことがある。写真撮影に際しての積極的な協力と並々ならぬ理解--この理解が列席者に非常な好感をもたせたのであるが--に対して負うところ極めて大なるものがある。
 
パディ
少年の霊で、実験会の進行の上で一ばん活発に働いている。人間側のサークルに対する霊界側のサークルの進行係を受け持っていて、自分の存在を地上の縁者に知らせたがるスピリットに、たとえばエクトプラズムで出来たボイスボックス(発声器官)などの使い方を指導している。実にユーモアのある性格をしているが、現象の説明などになると一転して真剣そのものになる。よく、か細い声で歌ったり物質化して出て来たりする。サークルのメンバーの自宅に出向いてその日の出来ごとを観察しておいて、実験会でそれを披露するというようなことをよくやる。
 
ルーベン
南米で学校の教師をしていた人。在世中に英国を訪れ、そこでテタヌス(筋の硬直と痙攣《けいれん》を伴う熱性の病気)で死亡している。はじめの頃この霊が憑《かか》ってくると、その死亡時の症状が出て、霊媒のウェバー氏が身体をはげしくよじらせた。この霊は実にパワーを感じさせることをよくやり、特にその迫力ある歌声は有名で、声量豊かなバリトンはレコード会社のデッカが録音したほどである。まるで拡声器から出てくるのではないかと思わせるほど大きな声である。これについては後章で述べる。この人もステージで入神講演をすることがあるが、霊媒の体力の消耗がはげしいので、今のところ中止している。完全に物質化したことがある。

 

 このほかに治療霊団のマロダール、タルガー、それにウェバー氏の大おじに当たるジョン・ボーデン牧師。それからミラー博士とデール教授。この二人は主として物質化現象を担当し、その地上時代の経歴は本人から出された証拠によって確認されている。


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